外国で髪を切ってもらうということ その2
彼がおもむろに野球帽を取るとそこに現れたのは、実にとんでもないものだった。頭の両サイドが完全に刈り上げられ、全く何もないのだが、てっぺんには、両サイドと不釣合いなぐらいに髪が茂っている。実にへんてこりんな感じなのだ。この状態を一言で形容するならば「パイナップル」だろう。両サイドには何もなく、上に緑の葉がちょこんと付いている、あの感じなのだ。絶対に笑うなと念を押され、もちろんだと答えたものの、これを笑わずにいられるだろうか。考えてもみてほしい。てっきり「犬も食わない」夫婦げんかの話を聞かされるものと思っていたところに、「ぱぴょ~ん!」という感じでパイナップルが現れてしまったのだ。反射的にふき出しそうになったが、かろうじて下唇をかんでこらえた。(本当に危ないところだった…。)私は、目の前の強烈なパイナップルから目をそらし、さりげなく短く深呼吸すると、真面目な顔で言った。「いいじゃないですか。夏だし、涼しそうですよ。あんまり脅かすから、どんなすごいことになったのかって心配しちゃいましたけど、なんかいいですよ、それ。」(ああ、私はなんというペテン師であろうか。ちょっと気を許せば、爆笑してしまうほど、彼は「パイナップル」なのに、「なんかいいですよ」などと言っている…。)と彼は、「そ、そうかなあ。そうかあ」と、かぶりなおそうとしていた野球帽を隣の椅子にのせると、いつもの笑顔に戻って、「悪くないのか…」と何度か頭のてっぺんに残っている髪をかきあげて見せた。ああ、何というパーフェクト・パイナップル・スマイル…。
昼食代は気前よく彼が持ってくれた。私は丁寧に礼を言って、自分の車に戻った。彼のフォードが駐車場から出て行くのをバックミラーで確認するやいなや、私はこらえにこらえていた笑いを思いっきり吐き出した。生まれてこの方これほど笑ったことはなかっただろうというくらい、もう笑いに笑った。しまいにはお腹が引きつった。車の中で笑い続ける東洋人を、レストランにやってきた人たちが、薄気味悪そうに見て通っていく。恥ずかしいので駐車場から車を出したいのだが、笑いが収まらずになかなか車を出すことが出来なかった。いや、正直に言おう。私は腹を抱えて笑いながらも、本当は気づいていたのだ。というより、もっと大切で深刻な問題を笑うことでごまかそうとしていたのだった。彼は、私などよりもはるかに上手な英語を話す。その彼ですら、何かの拍子に、「パイナップル」にされてしまうのだ。私などが今床屋へ乗り込んだら、「パイナップル」じゃすまないだろう。頼んだはずのないパーマまでかけられ、「アフロなコーヒー・ビート」になってしまうかもしれないのだ。私は二月に一度ぐらいしか床屋へは行かない。ということは、二月は「アフロなコーヒー・ビート」ですごすということだ。考えるだけで恐ろしい。私はそれから半年以上床屋へは行かなかった。
いくら行きたくないとはいえ、行かなければならないのが床屋である。何度も情けない失敗を繰り返した。正確に言えば、私の失敗というより「彼ら」の失敗なのだが、本当に本当にいろいろなことが、ここには書ききれないほどあった。外国で自分の髪をうまく切ってくれる人なんて見つかるはずはないよなと、ほとんどあきらめかけていたときに、今お願いしている人に出会った。彼女は韓国から来たばかりなので、ほとんど英語が通じない。私も韓国語が出来ないので、彼女との間にはほとんど会話らしいものはない。初めてのとき、家内の母が、何事か短めに彼女に指示を出してくれ、いまだに彼女はその通りやってくれている。彼女がカットしてくれた後は実にすっきりした感じになるのだが、かといって切り過ぎというわけでもない。何よりもうれしいのは、伸びてからもあまり見苦しくならないのだ。本当にすごいと思う。私は店に行き、黙って大きい鏡の前に座っているだけでいい。私は彼女を完全に信頼している。もう、「パイナップル」の影におびえることもない。

4 Comments:
ええ、「その3」がありますか?面白い話ですね。私はいつもアジア系の人に髪を切ってもらいます。ボストンで香港からの人に頼んでいました。実は彼はマンダリンの中国語が出来なくて、私も香港の言語が出来ないですが、英語で髪が切れます。javascript:void(0)
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もう、とてもシーンとするイーヅコンピューターラブで大笑いをしないようにする努力で、私の顔が痛くなりました。すごいイメージですね、パイナップル。
パイナップルも面白いけど、ほかの客が大笑いのためで駐車場から出られない東洋人をじーとみるほうが見たいですね。
ところで、80年代のアジアでは、パーマがけっこう流行っていたんですね。男性でも。
ああ、なるほど。そのパイナップルを見たら確か床屋に行きたくなくなりますねぇ。そのパイナップルを想像すると、私も笑うことしかないです。
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