ホッチキス

先週に引き続き、私の英語の失敗談をもう一つ。
前にも話したが、大学で日本語を教える前は、日本の会社で8年ほどサラリーマンをしていた。最後の2年は、コネチカット州にある代理店で仕事をした。はじめは、英語が分からずにちょっと大変だった。幸い代理店の人は皆良い人たちばかりで、いろいろ助けてくれた。特に秘書のリンダさんは親切だった。いつも、何かにつけ声をかけてくれ、そのころ(1996年)大ヒットしていた「マカレナ」のダンスを教えてくれたりしたのを覚えている。しかし、問題は私の英語である。ごく簡単なことでも、話が通じずに困ることも多かった。
仕事でレポートをまとめ、それを綴じるのにホッチキスが必要になった。早速リンダさんのところへ行って「すみません。ホッチキスをお借りしたいんですけど」と言うと、「え?何?」と聞き返されてしまった。いつものことなので、私はまた「ホッチキスをお借りしたいんですけど」と繰り返した。彼女は少し首をかしげて、「ホ??」とまた聞き返す。私は、「そうか。俺の発音はよっぽど悪いんだなあ」と、またまた情けない気持ちになりながら、少し発音に変化をつけて「ホッチキスです」と言ってみた。しかし、リンダさんは左の方に首を傾けなおすだけである。私は、「まただめか。じゃあ、アクセントは後ろなんだな」と思い、今度は、キスの部分をかなり強めに発音してみた。「ホッチキス!」すると、リンダさんはこれでもかというほど眉をひそめ、「kiss??」と聞きかえしてきたのだ。私は、あせった。(何かとんでもない方向に話が進んでいっているのではないか?まさか彼女、私がキスをしたいとか言い出したと勘違いしているんじゃないだろうな。私はただ、普通に、ホッチキスを借りたいだけなのだ。)私は、あわてて、もう考えうる限りのバリエーションで、ホッチキスを発音してみた。「ホチキース」「ホーチキス」「ホチーキス」「ホーチーキ~ス」全然だめだ。泣きたい気持ちになりながら、つい「ホーチキッス」と言ってしまった…。リンダさんは立ち上がって「kiss??」とますます眉をひそめた。(違うんだ。そんな「セクハラおやじ」を見るような目で見ないでくれ!!)
もう、あきらめようかなと思ったその時だった。彼女のデスクの上にホッチキスがデーンとのっているではないか。私は、それをつかんで「これです!ホッチキス」と言うと、彼女は「Oh! STAPLER!」と椅子に座りなおした。私は何か説明をしなければならないなと思ったが、リンダさんのデスクの電話が鳴り、私はありがとうとだけ言って、その場を離れた。
しばらく後で、「ホッチキス」は、アメリカ人ホチキス(B. B. Hotchkiss)が発明し、その名がつけられたと知った。アメリカ人が発明したのに、アメリカでは、ホッチキスとは言わないのだ。おかげで、ひどい目にあってしまった。

3 Comments:
面白かった話ですね。でも、その時の有留先生は若くて、セクハラおやじじゃなかったでしょう?おやじは何歳ぐらいの人と呼びますか?
ああ、分かりました!一、二年生の頃、有留先生がその話を仰っていて、ホチキスという言葉を教えてくださったのです。そのとき、日本語があまり分からなかったので、半解してしまいました。本当にまた聞きたかったので、ありがとうございました!
大変ですねえ!そういう立場、心地よくなかったでしょう。
実は、今まで「ホッチキス」という言葉を知りませんでした。こんな面白い話でもう忘れられないほどよく教えてくださってありがとうございました。
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